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タイ語翻訳に依存するラオス社会---アジア翻訳ジャーナル No.3

ラオスのことを知っていますか?

一般の日本人はラオスと聞いてもほとんど具体的なイメージが浮かばないのではないでしょうか。日本からは遠く、一般の日本人には関わりがほとんどないからです。「タイとベトナムの間にある国」「山岳国」「人口が少ない」「首都はビエンチャン」といったことが浮かべば、世界地理では合格点かもしれません。

ビアラオ 企業から派遣されてタイに駐在した経験がある人なら、ラオスのイメージがあるのではないかと思います。タイにいるとラオスは隣国であるし、バンコクでは古式マッサージなどでラオス人が働いていたりします。また、タイで最も人口が多く、バンコクにも出稼ぎ者が多い東北地方の言葉はラオス語に似ているので、そういったことをどこかで聞いて知っていたりするでしょう。あるいは長期滞在している外国人旅行者にとって、ラオスのビエンチャンはビザ更新のためのお馴染みの地ともなっています。「ラオスのビールはビアラオ」「メコン川が流れている」「ラオス語とタイのイサーンの言葉は近い」と思い浮かべば、もうラオス通でしょう。


ラオス語はタイ語(ラオ語)の起源

ラオスは人口が630万人で、東南アジアでは小国扱いされます。国土面積も隣国に比べると狭いのですが、それでも日本の本州並みの大きさがあるのです。どうしてそれだけの面積がある国に人口が埼玉県(715万人)よりも少ないのかと言えば、それはラオスが山岳地帯で、食料を生産しにくいためと推測できます。

ラオスの古都、ルアンパパンそんなラオスですが、歴史は輝かしいのです。かつては3つの王国がありました。それは中部のビエンチャン、北部のルアンパパン、南部のチャンパサックにありました。現在ではこのうちルアンパパンが寺院の多い古都として、チャンパサックのワットプーとその周辺が古代遺跡群としてユネスコの世界遺産に登録されています。由緒ある国なのです。

現在は小国扱いされるラオスですが、ラオス人はタイ人の起源とされます。ラオス人は現在の中国に住んでいましたが、南下してラオスとタイ北部に移り住んだ部族に別れました。ラオスでは上記の3つの王国を築き、タイ側ではチェンマイ王国からスコータイ王国、アユタヤ王国と築いて行ったのです。元は同じ民族ですから、タイ語はラオス語(ラオ語)の方言ともされます。もちろん部族が分かれてから数百年間も別々の道を歩み、それぞれの文化と文明を発達させてきたので、両国の言葉にもその違いが反映されています。それでも、何人かのラオス人に聞いたところ、ラオス語とタイ語は6、7割が同じと教えてくれました。 隣国でもベトナム語は他人、カンボジア語は従兄弟、ラオス語とタイ語は兄弟と比喩できるのではないでしょうか。


文化・文明はタイから流れる

言葉は文化経済が発達した方から流れるとされます。かつてはタイにとって父兄格のラオスですが、社会主義化で経済的、現代的な発達が遅れてしまい、今ではタイから多くのモノや情報が流れ込んできます。それにともなって言葉も入ってきます。ラオスの国営テレビは面白みが無いため、ラオス人の多くは国境を越えて入ってくるタイのテレビ放送の娯楽番組を見ていて、ラオス人はごく普通にタイ語を理解できます。また、カラオケに行けば、ほとんどタイの歌謡曲を歌います。タイに出稼ぎに行くラオス人も多く、ラオス人にとってタイ語は身近です。

一方のバンコクの人々に言わせると、ラオス語は分からないそうです。じっくり聞いたり、読んだりすれば、ある程度は分かるはずなのですが、試しもしないで分からないと言い切る。それは、やはり優越感のためと思われます。ただし、タイ人でもイサーンの人々は素朴なのか、「良く似ている」と認めます。

自動車もオートバイもタイ製ラオスでは、テレビや歌謡曲だけではなく、教育においてもタイ語が欠かせません。ラオスの偉い人はそれを否定するかもしれません。しかし、大学の図書館に行けば、そのほとんどの学術書はタイの書籍なのです。人口が少なく、教育レベルの低いラオスでは、ラオス語に翻訳された学術書は稀です。また、旧フランス植民地のためか、英語の素養が弱いようです。さらに社会主義化してからは、政府の幹部たちが旧ソ連に留学していますので、やはり英語に慣れていないようです。こういったことから、英語による高等教育が促進されなかったのでしょう。

今後、ラオスはどこに向かうのでしょうか。このままタイ語に依存していくのか、それともラオス語独自の知的財産を築いていけるのか。あるいは国際言語である英語を取り入れて行けるのか。アジア言語の翻訳コーディネーターとしては、日本語の知的財産がもっとラオス語に翻訳され、ラオスの人々の発展や楽しみに結びつけばいいと願うのです。

2013年3月

外務省ラオス語専門家インタビュー

INJラオス語講師 ティッキー先生

東京外国語大学によるラオス語紹介


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