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日本観光パンフの地名とタイ語表記 ---アジア翻訳ジャーナル10

ノービザ化で東南アジアからの観光客が急増



Japan tourism and thai2012年に日本を訪れたタイ人は法務省統計によると約28万人ですが、これが2013年は5割増の40万人に達しそうです。急増の理由として2013年7月からタイ人の日本入国ビザが簡易化(窓口発行)されたことがあります。

マスターカードなどの調査によると、タイ人が一番行ってみたい国は日本でした。こういったことから、タイの経済成長にともなって日本を訪れるタイ人はこの10年間で3倍以上に増えていました。それでも、ビザを取得するためには所得や職業など様々な証明書類をそろえなければなりませんでした。それが簡易化されたことで、訪日に弾みがついたのです。

このままの勢いですと、数年後には香港からの旅行者数を超えそうです。同様の傾向は他の東南アジア諸国にもあてはまり、タイ、インドネシア、マレーシア、フィリピン、ベトナムの5カ国の旅行者の合計は数年後に中国(本土)をも上回るかもしれません。こういった新しい流れを受けて、日本の観光業界でも対応が始まっています。

これまで日本を訪れるタイ人は、入国ビザを取得できるだけの資金力と信用がある富裕層で、海外旅行慣れした人が多かったと思われます。また日本好きで、事前の理解もあったのではないでしょうか。しかしその裾野が広がっていることで、海外旅行が初めてとか、日本に関して特に知識にない人も含まれるようになるでしょう。

そこで日本の受け入れ先にとって重要になるのは、タイ語による案内を準備することです。海外慣れした人であれば英語でもかまわないかもしれませんが、そうではない人も増えてきます。少人数でも迷子になったり、日本では不適切な行動をとると、それは周囲を混乱させます。

こういったことは観光スポット、ホテル、あるいはテーマパークなどでは経験済みのようです。このため当社にも日本の翻訳会社を通じて、観光マップ、webサイト、パンフレット、メニューなどの翻訳依頼が増えています。特に当社ではタイ語のDTP(デザイン)とwebサイトのコーディングができますので、それが強みになっています。


「沖縄」は5つの表記が混在

これまでの経験から、観光翻訳独特の問題を紹介します。最も多いのは地名などの固有名詞です。「東京「や「京都」といったメジャーな地名はタイ語が定まっています。しかし他県になると、「沖縄」でさえインターネット上では「โอะกินะวะ」「โอกินาวะ」「โอกินาวา」「โอกินาว่า」「Okinawa」の5つの表記が混在しています。日本のほとんどの市町村や観光地はタイ語が定まっていないのです。

Japan tourism and thai

タイ語には母音、子音に加えて発音記号もあり、表記が定まりにくいのです。このため、日本の地名、文化的名称、人名、ホテル名などは複数の表記が混在しています。

この問題への対処法としては三つ考えられます。一つは事前に日タイの対訳表を作ることです。しかしこれは辞書を作ることであり、大変な作業です。前述した「沖縄」の表記を検討するだけでもいったいどれだけの時間がかかるのか分かりません。 せいぜい統一するとしても、いくつかのキーワードのみでしょう。

しかしそれらもほとんど意味がありません。なぜなら、今やもっとも人々が使うインターネット上では既に複数の表記が混在することがデファクトスタンダードになっているからです。例えばタイ語のWikipedia、日本の外務省、観光庁、国際交流基金、旅行大手アゴダなどの表記がそれぞれバラバラです。日本の外務省のサイトの中でも統一されておらず複数が混在していることがしばしばあります。検索サイトでもそれを認識しており、タイ語の場合は表記違いのwebサイトを表示する範囲が広くなっています。

さらにタイのマスコミでも表記が統一されていません。日本では表記統一でマスコミが大きな働きをしていますが、タイでは日本の固有名詞に対してそれほど気を使っていないようです。

もう一つは選択的にアルファベット表記することです。観光パンフレットなどでは、ホテル名やサービス名、テーマパーク名などをそのままアルファベットで表記することで間違いや、「迷子」を避けることができます。 そして三つめの対処法としては、常識的で優秀な翻訳者に一任することです。優秀な翻訳者はインターネット上で調べてタイ人の感覚で適切なものを選びます。タイ人にとって読みやすい翻訳こそ、優れたタイ語訳なのではないでしょうか。日本側の労力やコストパフォーマンスを考えますと、これが最もお勧めです。

ただし、複数の表現が混在するタイ語翻訳の宿命として、第三者の翻訳者にチェックをしてもらったときに、表現の違いが指摘されることがあります。しかしそれらの多くは、間違いではなく、表現上の選択の違いにすぎないことがほとんどですので、あまり気にされない方が良いのではないかとも思います。沖縄どころか、「大阪」でさえ「โอซาก้า」「โอซากา」「โอซะกะ」の3種類の表記が混在しているのです。


2013年12月


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