多言語翻訳の醍醐味と言えるのは、出来上がってきた現地語の文書を見る時の感動です。私はタイ語を読むことはできますが、それ以外の言葉は読めませんので、「見る時」と表現させて頂きます。この東南アジアの文書を見たときの感動は、文字によって程度の差があります。そこで今回は「見た時に感動が大きい東南アジア文字のトップ５」を選んでみました。これは全く個人的な、たわいない意見ですので、お気軽に読み流して下さい。
東南アジアの文字の起源はインドにあります。それを紀元前から東南アジアに住んでいたモン族とクメール族がそれぞれ独自に発展させました。モン文字は、後にこの地域に進出してきたビルマ族が継承発展し、クメール文字はタイ族とラオ（ラオス）族が継承発展させたのです。これらとは別に、近年になってローマ字を取り入れた国がありますので、東南アジアの文字は３グループに分けることができます。すなわち、以下の通りです。（学術的な難しい名前は避けます）
１．ローマ字ベース
インドネシア、マレーシア、ベトナム、フィリピンの文字
２．クメール文字から派生
カンボジアのクメール文字、タイのタイ文字、ラオスのラオス文字
３．モン文字から派生
ミャンマーのビルマ文字
初めて東南アジアの文書に接した人であれば、ローマ字を使ったものでも「お、おっ」と思うでしょう。文字は読めても意味が分からないので、異国情緒があります。しかし、ローマ字は日本人にとっても日常的に接する機会があり、ユニークさに欠けます。その中でベトナム語は、発音を指示する補助記号が多く、それが東南アジア的な雰囲気を醸し出しています。そこでまず、見た時に感動する東南アジア文字として入選５位は「ベトナム文字」です。（ベトナム文字の例）VietnamNet
私は現在タイに住んでいますが、当地に来たばかりの頃はタイ文字をとてもユニークに感じました。しかしタイに長く住んでいると、タイ文字に慣れてしまって感動度は下がります。そこで今回の個人的な選考では、ユニークではありますが、「タイ文字」はトップ３を逃して入選４位です。（タイ文字の例）Thairath
タイ文字は、クメール文字を原形として開発されたラオス文字から派生した文字です。このためラオス文字とは兄弟関係にあます。タイとラオスは、メコン川流域では民族、文化も最も近く、言語も６割くらい共通しているようです。タイ文字が読めれば、ラオス文字も少しは判読できます。それでも、依然としてユニークに感じます。そこで「見て感動する東南アジア文字」の銅メダル、第３位に「ラオス文字」を選びます。（ラオス文字の例）VOA news
ラオス文字は、兄弟のタイ文字に比べると、ふにゃふにゃした感じで、湯気が立っている温泉マークみたいです。お化けのＱ太郎の仲間たちが並んでいるようにも見えます。ラオス人の素朴さがとても現れていると思います。
そしていよいよ銀メダル、第２位に選ぶのはクメール文字です。クメール文字はラオス文字とタイ文字の原形で、親にあたります。両文字よりも複雑な形をしており、古代の面影が残っています。両文字はクメール文字を簡易化して使いやすくしたのではないでしょうか。（クメール文字の例）Camnews
クメール文字は一見して、書きにくそうです。私の経験からすると、コンピュータを使った時に文字化けの可能性が一番高いのもクメール文字で、ウェブサイトでもよく文字化けしています。最近はカンボジア語の翻訳依頼も増えていますので、翻訳後にクメール文字がきちんと表示された姿をみると、感動というよりも、むしろ、ほっとします。
ついにやってきました。見た時に感動する東南アジア文字の金メダル、チャンピオンを発表いたします。それはミャンマーのビルマ文字です。（ビルマ文字の例）BBC Burmese
私は10年以上タイ語の翻訳コーディネーターをして、東南アジアの言語も徐々に翻訳事業の対象範囲に収めてきました。そんな私にとって、最近接することになったビルマ文字は、まだ慣れない文字です。しかし、見た目に感動するのは、慣れていないからだけではないと思います。東南アジア文字の中で、クメール文字と並んで古代文字に近い文字であり、形象文字時代の複雑さが残っているのがビルマ文字だと思います。虫みたいな形をした文字もあります。ビルマ文字がずらっと並んだ文章は壮観です。翻訳に携わる皆様には、是非、ミャンマー語への翻訳を経験して頂き、その感動を分かち合って頂ければ幸いです。
2013年6月
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