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東南アジアでのプレゼンテーション---アジア翻訳ジャーナル9

1回の講義で伝えられる内容とは


presentation日本人ビジネスマンやエンジニアがタイやカンボジアなどでセミナーを行うため、日本語のプレゼンテーション資料を現地語に翻訳することがあります。ここでしばしば問題になることは、現地人の出席者に伝えたいことがうまく伝わらないことです。出席者から資料が分かりにくいと指摘されれば、翻訳が悪いためとお考えになることも仕方がありません。しかし分かりにくさには別の理由がある可能性もあります。

たいていのセミナーは1回の講義時間が1時間ほどです。この間にどれだけのことが伝えられるでしょうか。これを大学の授業と比較してみましょう。大学では90分の講義を週1回、合計15回受けると2単位取得できます。これで教科書1冊分です。これから逆算しますと、90分で教える内容は例えば経済学入門ですと、400ページの教科書ならその15分の1の27ページ程度ということになります。大学生を相手にしてもこれが教えられる量の上限と言えるでしょう。

一方、高校生の場合は、例えば山川出版の新日本史Bの教科書416ページを1年かけて教えます。授業は50分×140回あります。教える量は1回が3ページ以下ということです。これでも学生たちがどれくらい理解しているのか、ちょっと怪しそうですね。


社会的背景の違いと理解度

もし受講者が、日本の背景を知らないタイ人やカンボジア人だった場合はどうでしょうか。セミナーでは、 現地ではまだ馴染みのない日本の新しいノウハウや事例を紹介するのですから、社会的な背景が違うと理解度も違ってきます。さらにプレゼンテーションを英語で行う場合はどうでしょうか。仮にプレゼンターの英語が上手くても、相手の英語力は半分以下かもしれません。優秀な現地語の通訳を使う場合でも、よほどゆっくりと話さなければ、相当な割合で説明が失われています。

こういったことから、90分の講義で大学レベルの教科書26ページ分を説明するのは難しいでしょう。かといって高校レベルの数ページは少ないかもしれません。現地の出席者の理解度と伝える量のマックスがどれくないなのか、日本語でプレゼンテーション資料を作る段階で考慮していただく必要があります。

中には1時間程度の講義に、文字と図表のびっしり詰まったパワーポイントを30ページもご用意される方がおられますが、さすがにそれは無理ではないでしょうか。出席者は消化不良を起こし、満足度も下がります。 もう一つの目安として、日本の中学3年生くらいに発表するくらいに説明を噛み砕いていただくと、さらに理解度が高まるでしょう。とにかく日本と東南アジア諸国では文化も習慣も経済発展度も全く異なりますので、日本の多くの「常識」は通用しません。日本のエンジニアには一般的な専門用語なども、現地では使われておらず、現地語訳がないかもしれません。東南アジアでプレゼンテーションを成功させるには、どれだけ情報量を割愛し、内容を簡素化できるかにかかっているのです。

どうしてもたくさん発表したい場合は、プレゼンテーション資料は簡素にした上で、文章によって説明する数ページのレポートを補足資料として提供することもご検討ください。ただしこれも簡単な文章で書くことが大切です。


2013年11月


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